大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和62年(ワ)14269号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  請求

一  被告は、原告に対し、別紙第二物件目録(一)の1及び2記載の各建物を収去して、別紙第一物件目録(一)記載の土地を明け渡せ。

二  被告は、原告に対し、別紙第二物件目録(二)の1記載の建物並びに同2記載の給油施設及びその附属設備を収去して、別紙第一物件目録(二)記載の土地を明け渡せ。

第二  当事者の主張

一  原告の主張

1  川井重次は、もと、別紙第一物件目録(一)記載の土地(以下「五三番七の土地」という。)及び同(二)記載の土地(以下「五三番五の土地」という。)並びに東京都新宿区《番地略》の土地(以下「五三番一一の土地」という。)を所有していた。

2  原告補助参加人甲野四郎(以下「参加人」という。)は、右川井重次から、昭和二五年六月三〇日、右五三番五の土地及び五三番一一の土地(以下、この両土地を併せて「旧五三番五の土地」という。)を買い受け、また、同年九月二日、右五三番七の土地を買い受けた。

3  原告は、参加人から、昭和六一年五月八日、五三番七の土地及び五三番五の土地(以下、この両土地を併せて「本件土地」ともいう。)を買い受け、翌同月九日、所有権移転登記を受けた。なお、原告は、同時に、右五三番七の土地上に存する別紙第二物件目録(一)記載の一棟の建物(以下「本件建物」という。)のうちの三階部分を参加人から買い受けた。

4  被告は、本件建物の一階部分及び二階部分である別紙第二物件目録(一)の1及び2記載の各建物を区分所有して五三番七の土地を占有し、また、五三番五の土地上に同目録(二)の1記載の建物(ポンプ室)並びに同2記載の鉄骨造の給油施設及びその附属設備を所有し、かつ、被告が経営するガソリンスタンドの給油場所等として使用して、五三番五の土地を占有している。

5  よつて、原告は、被告に対し、本件土地の所有権に基づき、本件建物の一階部分及び二階部分、右ポンプ室並びに右鉄骨造の給油施設及びその附属設備を収去して、本件土地を明け渡すよう求める。

二  参加人の主張

1(一)  参加人は、昭和二四年一〇月一五日、川井重次から、もとの東京都新宿区《番地略》の土地(以下「旧五三番一の土地」という。)のうちの七〇・二坪を代金坪あたり二〇〇〇円(合計一四万〇四〇〇円)で買い受け、その後、買受面積は八〇・四五坪に増加し、参加人は、同年一二月二二日までに代金として合計一六万六三六〇円を支払つた。

(二)  また、参加人は、昭和二四年一〇月二五日、川井重次から、右旧五三番一の土地のうちの一〇〇坪を代金坪あたり二〇〇〇円(合計二〇万円)で買い受け、その後、買受面積は四一・四坪に減少し、参加人は、同年一二月二二日までに代金として合計八万六〇〇〇円を支払つた。

(三)  右(一)の買受土地が旧五三番一の土地から分筆されて旧五三番五の土地となり、昭和二五年七月一〇日に参加人に所有権移転登記され、また、右(二)の買受土地が旧五三番一の土地から分筆されて五三番七の土地となり、同年一一月三〇日に参加人に所有権移転登記された。

2  被告は、旧五三番五の土地及び五三番七の土地について、参加人からこれらを賃借した旨主張しているが、参加人は賃貸したことはない。ただ、無償使用を許していただけである。被告は使用貸借によつて本件土地を使用占有していたに過ぎないのである。被告が支払つたという賃料も、被告の監査役であり顧問弁護士であつた参加人に対する報酬であり、それは、昭和五六年一一月から昭和六一年五月までに過ぎない。

三  被告の主張

1  旧五三番五の土地及び五三番七の土地は、もと川井野との所有であつた。そして、甲野三郎、甲野六郎及び参加人の三名が、昭和二四年一〇月ころ、旧五三番五の土地を、各自の持分を三分の一として、川井野とから代金二〇万一一二五円(坪二五〇〇円)で買い受け、また、昭和二五年九月ころ、五三番七の土地を、同様に川井野とから坪二五〇〇円で買い受けたものである。したがつて、参加人は、本件土地につき三分の一の持分しか有しなかつた。

2  仮に旧五三番五の土地及び五三番七の土地がもと川井重次の所有であり、これを参加人が単独で買い受けたとしても、

(一) 賃貸借契約

(1) 被告は、<1>昭和二六年八月一五日ころ、参加人から、旧五三番五の土地を建物所有の目的で賃借し(賃借期間二〇年)、<2>次いで、昭和三六年二月ころに五三番七の土地の北側部分を右賃借地に加える旨参加人と合意し、<3>更に、昭和四二年六月ころに右五三番七の土地の残りの部分(南側部分)を右賃借地に加える旨を合意した。

なお、賃料は、昭和二七年一月分から昭和六一年五月分までを参加人に支払い済みであり、昭和六一年五月八日分以降は供託中である。

(2) 仮に、右が認められないとしても、被告は、<1>昭和三七年一〇月ころ、参加人から、旧五三番五の土地と五三番七の土地の北側部分とを、堅固な建物所有の目的で黙示的に賃借し(賃借期間三〇年)、<2>昭和四二年一一月ころ、黙示的に、参加人との間で一旦右賃貸借契約を合意解除した上、改めて五三番五の土地と五三番七の土地との両土地(本件土地)を、堅固な建物所有の目的で賃借した(賃借期間三〇年)。

(3) そして、昭和四二年一二月ころに本件建物が五三番七の土地上に新築され、被告は、その一階部分及び二階部分を区分所有してその旨の登記を受けた。

ところで、たしかに、本件建物は五三番七の土地上にあり、被告は、五三番五の土地上には原告が本件土地を買い受けた当時登記ある建物を所有していなかつた。しかし、被告が参加人から賃借したのは五三番五の土地と五三番七の土地であり、被告はこの一定範囲の土地を参加人から賃借していたのである(地番は単に行政上の区画であつて、特定、表示のためのものに過ぎない。)。被告はこの一定範囲の土地をガソリンスタンド経営のために一体的に使用し、そしてこの一定範囲の土地上には登記ある本件建物が存在しているのである。そうとすると、被告は、この一定範囲の土地の賃借権を新土地所有者である原告に対抗することができるというべきである。

(二) 賃借権の時効取得

仮に然らずとするも、被告は、本件土地を賃借しているものと考えて昭和二六年から占有してきたのであるから、一〇年または二〇年の経過により賃借権を時効取得している。そこで、被告は、平成三年七月二九日の本件第三一回口頭弁論期日において右取得時効を援用する旨の意思表示をした。

(三) 権利の濫用

原告は、被告が五三番七の土地上の本件建物の一階部分と二階部分とを区分所有し、また、五三番五の土地上にポンプ室並びに鉄骨造の給油施設及びその附属設備を所有して、ガソリンスタンドを経営していること等の事情を十分に知りながら、暴利を得ようとして本件土地を買い受けたものであるから、原告の本訴請求は、権利の濫用として許されないというべきである。

四  原告の再主張

仮に被告が参加人から本件土地を賃借していたとしても、

1  それはガソリンスタンドの経営を目的とするものであつて、建物所有を目的とするものではない。

2  仮に建物所有を目的とするものであつたとしても、(1)被告は、五三番五の土地上には原告の買受当時登記ある建物を所有していなかつたから、五三番五の土地の賃借権を原告に対抗することができず、したがつて、被告は右土地を原告に明け渡さなければならず、(2)被告が右五三番五の土地を原告に明け渡すとすれば、被告は五三番七の土地だけではガソリンスタンドの経営を継続することができなくなるから、五三番七の土地についての賃貸借契約もその目的を達し得ないものとして終了するというべきである。そうとすれば、結局、被告は原告に対し五三番五の土地と五三番七の土地の両土地(本件土地)を明け渡すべきである。

第三  当裁判所の判断

一  認定

《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

1  原告補助参加人甲野四郎は四男で、水飴製造機の製造販売を目的とする株式会社丁原製作所に営業部長として勤務していたが、昭和二三年四月に司法修習生となり、二年間の修習を終えた昭和二五年四月に弁護士となつた。

甲野三郎は三男で、昭和二四年ころ戊田株式会社に勤務していた。

乙山五郎は五男で、乙山家に養子に行き、三島市に住んでいたが、昭和二五年五月ころ上京した。

甲野六郎は六男で、甲田県庁に勤務した後、昭和二四年二月ころから本件土地に近い東京都新宿区《番地略》で和菓子の製造販売をしていた。

2  もとの東京都新宿区《番地略》の土地(旧五三番一の土地)は、昭和二四年当時川井重次が所有していた。

3(一)  甲野六郎は、昭和二四年四月ころ、不動産業者から、右旧五三番一の土地を購入しないかとの話をもちかけられ、これを兄の甲野三郎や参加人に告げたところ、参加人が購入することとなり、昭和二四年一〇月一五日ころ、参加人と川井重次との間で、旧五三番一の土地のうち七〇・二坪について代金一四万〇四〇〇円で売買契約が成立した。その後、右売買契約の対象となつた土地の面積は八三・一八坪に増加され、代金も一六万六三六〇円に変更されて、参加人は、これを同年一二月二二日までに支払つた。

(二)  更に、参加人は、昭和二四年一〇月二五日ころ、右旧五三番一の土地のうち別の一〇〇坪について川井重次と代金二〇万円で売買契約を結び、その後、右売買契約の対象となつた土地の面積は四三坪に減少され、参加人は、同年一二月二二日までに代金八万六〇〇〇円を支払つた。

(三)  参加人が購入した右(一)の八三・一八坪の土地は、昭和二四年一二月八日に旧五三番一の土地から分筆されて旧五三番五の土地となり、翌昭和二五年七月一〇日に参加人に所有権移転登記がなされ、また、右(二)の四三坪の土地は、同年七月二五日に旧五三番一の土地から分筆されて五三番七の土地となり、同年一一月三〇日に参加人に所有権移転登記がなされた。

4  参加人は、右旧五三番五の土地と五三番七の土地とを購入直後、旧五三番五の土地上に事務室及び簡易工場を建て、昭和二五年二月ころから前記株式会社丁原製作所の従業員を使用して社団法人乙田工場の名で水飴製造機の製造販売、水飴の製造販売をしていたが、同年五月ころ以降は主として乙山五郎がこれにあたつていた。

5  乙山五郎は、前記のとおり昭和二五年五月ころ上京し、一時右工場に住んでいたが、同年一一月ころ、参加人の了承を得て、参加人所有の五三番七の土地の南側に木造平屋建の建物を建て、同所に居住し、また、甲野三郎も、昭和二六年四月ころ、参加人の了承を得て、右五三番七の土地の北側に木造平屋建の建物を建て、同所に居住するようになつた。なお、乙山五郎は、昭和三七年ころに右木造平屋建建物を木造二階建建物に建て替えた。

6  しかし、前記の水飴製造機の販売や水飴の販売がおもわしくなかつたため、乙山五郎、甲野六郎、甲野三郎、参加人らは、昭和二六年八月八日、石油類砿物油植物油の販売等を目的とする丙田株式会社(被告会社)を設立し、前記工場建物を使用して石油類の販売を開始した。被告はその本店を前記工場建物に置き、その代表取締役に乙山五郎が、取締役に甲野三郎や甲野六郎らが、監査役に参加人がそれぞれ就任し、参加人は併せて被告の顧問弁護士となつた。被告は、昭和三〇年六月、その商号を現「丙川株式会社」に変更した。

7  被告は、昭和二七年ころ、旧五三番五の土地の東側に隣接するもとの東京都新宿区《証拠略》の土地(以下「旧五三番四の土地」という。)をその所有者小沢博から借り受け、ドラム缶置場等として使用していた。

8  被告は、昭和二九年七月ころ、旧五三番五の土地に六〇〇〇立法メートルの地下貯蔵槽一基を設置し、同土地及び旧五三番四の土地を使用してガソリンスタンドの営業を始めた。なお、前記事務所は、右ガソリンスタンドの設置の際に取り壊された。

9  その後、参加人は、前記の簡易工場を取り壊し、昭和三〇年一二月ころ、旧五三番五の土地の南寄りの部分に木造二階建居宅兼店舗を新築し、二階部分を自らが法律事務所として使用するとともに、その一階部分を被告に店舗等として使用させた。被告は、以後、右建物と旧五三番五の土地及び旧五三番四の土地を使用して、ガソリンスタンドを経営していた。

右建物の建築にあたつて、参加人は、住宅金融公庫から建築資金を借り入れたが、その返済は専ら被告が行つていた。

10  被告は、昭和三三年一〇月ころ、丁田石油の販売店になつた際に、参加人の了承を得て、旧五三番五の土地に地下貯蔵槽一基を増設した。

11  このような中、被告は、前記9記載の木造建物ではガソリンスタンドの営業に消防法上の問題があつたことや、また、他方で営業の拡大を企図したこと等から、これを取り壊してコンクリート造の建物を建築することとし、昭和三六年二月ころ甲野三郎をして前記5記載の建物から退去させた上、これを取り壊し、また、右木造建物も取り壊して、参加人の了承を得て、昭和三七年一二月ころ、五三番七の土地の北側部分とそれに隣接する旧五三番五の土地の南寄りの一部とにまたがつて鉄筋コンクリート造陸屋根二階建店舗兼事務所一棟(一階・二階各一一・六二坪)を建築し、引き続き右五三番七の土地の北側部分、旧五三番五の土地及び旧五三番四の土地を使用してガソリンスタンドを経営していた(被告第二準備書面添付工事請負契約書(昭和三七年八月三日付のもの))。

右鉄筋コンクリート造の建物は、被告の所有にかかるもので、被告名義で表示登記がなされ、一階を被告が店舗等として使用し、二階を参加人が法律事務所として使用していた。そして、後に三階部分が増築され、被告会社の従業員寮として使用された。

また、右鉄筋コンクリート造の建物の建築に際して、被告は、参加人の了承を得て、旧五三番五の土地及び五三番七の土地にまたがつて一万立法メートルの地下貯蔵槽二基を増設した。

12(一)  ところが、その後、高速道路建設に伴う道路拡幅のため、旧五三番五の土地の北側の部分(道路沿いの部分約三八・三八坪)が首都高速道路公団に収用されることとなつたため、参加人と被告とは、収用される部分の補償交渉のために、昭和四〇年一月一日付をもつて、賃貸人を所有者である参加人、賃借人を被告とし、賃貸借期間を昭和二六年八月八日から二〇年間、賃料を一月六万円とする旧五三番五の土地八〇・四五坪及び五三番七の土地の一部八・四坪の合計八八・八五坪についての建物所有を目的とする土地賃貸借契約書を作成し、また、同時に、賃貸人を所有者である被告、賃借人を参加人とし、賃貸借期間を昭和三八年二月一日から二〇年間、賃料を一月二万円とする前記鉄筋コンクリート造陸屋根二階建店舗兼事務所の二階部分についての賃貸借契約書を作成し、更に、被告は、昭和四〇年一月一四日の臨時株主総会で参加人に支払う地代を一月一万円から四万円に増額する決議がなされた旨の被告会社の議事録を作成して、これらを公団に提出した。

(二)  参加人は、その他に、公団との補償交渉にあたり、昭和四二年一月、「意見書」と題する書面を提出し、その中で、参加人が旧五三番五の土地及び五三番七の土地を被告に賃貸している旨を述べた。

(三)  右収用の対象となつた部分は、昭和四二年四月六日、一一六二万九一四〇円で公団に買収され、そのうちの七割に相当する八一四万〇三九八円を参加人が取得し、残り三割に相当する三四八万八七四二円を被告が取得した。被告は、右補償金のほかに、収用に伴い取り壊さざるを得なくなつた前記鉄筋コンクリート造陸屋根二階建店舗兼事務所やガソリンスタンドの工作物の収去費用等として、公団から一八六六万六一一六円の移転補償を受けた。

(四)  その後、旧五三番五の土地は、昭和四二年四月二六日、五三番五の土地と五三番一一の土地とに分筆され、右五三番一一の土地は公団に所有権移転登記がなされた。

13  右のとおり、旧五三番五の土地の一部(五三番一一の土地)が公団に収用されたため、被告は、残りの土地(五三番七の土地の北側部分及び五三番五の土地並びに五三番四の土地(旧五三番四の土地の一部(五三番九の土地)が収用されて残りの土地が「五三番四の土地」となつた。))でガソリンスタンドを経営していかざるを得なくなつたが、これでは手狭であるため、被告は、そのころ乙山五郎が住んでいた五三番七の土地の南側部分に建てられていた前記5記載の建物を取り壊してその跡地を使用することとし、昭和四二年六月ころ乙山五郎をして右建物から退去させ、右建物を取り壊すとともに、前記鉄筋コンクリート造陸屋根二階建店舗兼事務所をも取り壊し、同年一二月ころ、参加人の承諾のもとに、参加人と費用を出し合い、現存の別紙第二物件目録(一)記載の一棟の堅固な建物(鉄筋コンクリート造陸屋根三階建)(本件建物)を五三番七の土地上に建築した(被告第二準備書面添付工事請負契約書(昭和四二年六月三〇日付のもの)、同添付図面四)。

そして、その一、二階部分は、被告の区分所有として昭和四四年四月二一日に所有権保存の登記がなされ、被告がガソリンスタンド経営のための店舗及び事務所として使用している。三階部分は、参加人が区分所有し、その法律事務所として使用し、参加人がのちに本件土地を原告に譲渡した後の昭和六一年五月九日に参加人名義に所有権保存登記がされた。

また、被告は、本件建物の建築に際し、参加人の了承を得て、五三番五の土地及び五三番七の土地にまたがつて一万立法メートルの地下貯蔵槽一基を増設した。

しかし、五三番五の土地は被告が経営するガソリンスタンドの給油場所として使用されたため、計量器が設置されるにとどまり、特に建物は建てられず、昭和五三年に至つて、別紙第二物件目録(二)の1記載のポンプ室が建てられ、また、同2記載の屋根付給油施設(キャノピー)が設置されるなどした。しかし、被告は、右ポンプ室について、原告が本件土地を買い受ける以前に登記を経由せず、原告が買い受けた後の昭和六一年八月一日に初めて表示登記を経由した。

14  この間の昭和四九年一二月、被告は、裁判上の和解によつて、五三番四の土地を前記小沢博から買い受け、現在、右土地上にガソリンスタンド営業のための洗車機等の設備を設けている。

15  ところで、被告は、参加人に対し、地代として、昭和三八年に七か月分七万円を、昭和三九年に一年分一二万円を、昭和四〇年ないし同四五年に各四八万円を、昭和四六年及び同四七年に各八四万円を、昭和四八年及び同四九年に各九六万円を、昭和五〇年に一二〇万円を、昭和五一年及び同五二年に各一三二万円を、昭和五三年に一三六万円を、昭和五四年に一五六万円を、昭和五五年に一七四万円を、昭和五六年ないし同五九年に各一八〇万円を、同六〇年に二〇七万円をそれぞれ支払い、また、昭和六一年に五月分までの地代として九〇万円を支払つた。

昭和六一年五月八日以降の分については、後記のとおり参加人が本件土地を原告に売り渡し、原告がその受領を拒否しているため、供託中である。

16  被告は、参加人に対し、被告会社の顧問弁護士料として、少なくとも、昭和四五年及び同四六年に年額各二三万円を、昭和四七年に二四万円を、昭和四八年に三四万円を、昭和四九年に二九万円を、昭和五〇年ないし昭和五二年に各二四万円を、昭和五三年に(但し一〇月まで)二〇万円を支払い、更に、昭和六一年三月及び四月に各六万円を支払つている。

17  被告は、少なくとも、昭和三九年度分から昭和六〇年度分までの旧五三番五の土地と五三番七の土地の(五三番一一の土地が公団に収用された後は五三番五の土地と五三番七の土地の)固定資産税及び都市計画税をそれぞれ参加人に代つて支払つている。

18  参加人と乙山五郎らとは、昭和六一年ころから被告会社の経営方針をめぐつて意見が対立するようになり、参加人は、昭和六一年五月八日、本件土地と本件建物の三階部分の区分所有権とを代金合計一〇億八五一一万円で原告に売り渡し、翌同月九日、その旨の移転登記がなされた。

なお、昭和六一年一二月三一日現在の被告会社の発行済株式総数は七万四〇〇〇株であり、そのうち、参加人が七〇〇〇株を、参加人の妻が二〇〇〇株を、参加人の息子が四〇〇〇株をそれぞれ所有している。

19  原告は、本件土地を買い受けるにあたり、被告が本件土地上でガソリンスタンドを経営していること及び本件土地上に本件建物とポンプ室があることを知つていたが、弁護士である参加人から、被告の本件土地の使用権原は使用貸借である旨の説明を受けたため、これを信じ、被告にその旨を十分に確かめることもなく、また、五三番五の土地上の右ポンプ室について登記がなされているか否かを特に調べることもなく(本件建物についてはその一、二階部分が被告名義に所有権保存登記されていることを確認した。)、本件土地を買い受けた。

20  現在、五三番七の土地上には別紙第二物件目録(一)記載の一棟の建物が存し、被告は、その一、二階部分を区分所有し、また、五三番五の土地上には被告所有にかかる同目録(二)1記載の建物(ポンプ室)並びに同2記載の鉄骨造の給油施設及びその附属設備が存する。

被告は、本件建物の一階部分を店舗として、二階部分を事務所として使用しており、これらと五三番七の土地及び五三番五の土地並びに自己所有の五三番四の土地とを一体的に使用してガソリンスタンドを経営している。

本件土地等と本件建物等のおおよその位置関係は、別紙略図のとおりである。

以上の事実が認められる。

二  認定についての補足説明

前記15の認定について、参加人は、その尋問において、「昭和四二年ころ以降被告から五年間位一五万円を、一年間ほど一八万円位をもらつたことはあるが、それは被告会社の監査役としての報酬であつて、地代としてもらつたものではない。」旨証言している。

しかしながら、<1>被告会社の昭和三八年一二月期の決算報告書添付の「地代家賃の内訳書」には、七か月分の地代として七万円が参加人に支払われたことが、また、昭和三九年一二月期のそれには一年分の地代として一二万円が参加人に支払われたことが、以下、昭和四〇年一二月期から昭和六一年一二月期までの決算報告書添付の「地代家賃の内訳書」には、前記15で認定したとおりの金額が参加人に対して地代として支払われたことが、それぞれ明記されており、<2>また、昭和四三年一月から一二月までと昭和四五年一月以降の被告会社の帳簿中の勘定科目「地代 賃借料」、「家賃地代」欄等には、毎月参加人に対して地代が支払われた旨の記載があり(昭和四四年と昭和四二年以前の分は証拠として提出されていない。)、右記載の金額は当然のことながら右<1>の「地代家賃の内訳書」に記載された金額と一致し、そして、右帳簿に記載された金額のうち昭和五六年一一月分以降昭和六一年五月分までの支払いについては、別に振込金受取書があつてこれと一致しており、被告会社の右帳簿はかなり信用できるものといえ、ひいて「地代家賃の内訳書」も信用できるものといえること、<3>一方、昭和四五年一月から昭和五三年一〇月までと昭和六一年三月及び四月の被告会社の帳簿中の勘定科目「顧問料」、「給料手当」欄には、前記16で認定したとおり、昭和四五年一月から昭和五三年一〇月までと昭和六一年三月及び四月に、毎月参加人に対して顧問料が支払われた旨の記載があり(昭和四四年以前の分は証拠として提出されていない。)、少なくとも右の期間は、被告は参加人に対して、右<2>の金銭とは別に顧問料を支払つていたこととなり、以上の点に徴すると、被告が参加人に昭和三八年以降支払つていた前記15で認定した金銭は地代であると認定するのが相当であつて、参加人の前記証言はにわかに措信し難いというべきである。

三  判断

1  本件土地の所有者について

前記一の2、3及び18で認定したとおり、本件土地は参加人が川井重次から買い受け、原告に売り渡したものと認められる。

2  賃貸借契約の成否について

(一) しかしながら、前記一で認定した事実を総合すると、(1)被告が参加人の了承を得て五三番七の土地の北側部分とそれに隣接する旧五三番五の土地の南寄りの一部とにまたがつて被告所有の鉄筋コンクリート造陸屋根二階建店舗兼事務所を建築した際の昭和三七年一二月ころに(前記11参照)、参加人と被告との間で、右五三番七の土地の北側部分とそれに隣接する旧五三番五の土地についてガソリンスタンドの経営を目的とする土地の賃貸借契約が黙示的に結ばれたものと認定するのが相当であり、(2)更に、被告が右鉄筋コンクリート造陸屋根二階建店舗兼事務所を取り壊した上、その一、二階部分について区分所有権をもつ鉄筋コンクリート造の本件建物を五三番七の土地上に建築した昭和四二年一二月ころに(前記13参照)、参加人と被告との間で、黙示のうちに、右(1)の賃貸借契約を合意解除して、改めて五三番七の土地の全部と五三番五の土地の全部(すなわち本件土地)についてガソリンスタンドの経営を目的とする土地の賃貸借契約が結ばれたものと認定するのが相当である。

(二) 参加人は、被告との間で土地の賃貸借契約を結んだことはない旨主張するが、<1>参加人は、前記11及び13で認定したとおり、二度にわたつて自己の所有地に被告所有の鉄筋コンクリート造の建物を建てさせており、しかも、これまで被告に対して本件土地の明け渡しを求めたことはないこと、<2>参加人は、前記15で認定したとおり、少なくとも昭和三八年以降は地代として継続的に一定額の金銭を被告から受け取つていること、<3>加えて、被告は、前記17で認定したとおり、昭和三九年度以降の旧五三番五の土地と五三番七の土地の(五三番一一の土地が公団に収用された後は五三番五の土地と五三番七の土地の)固定資産税及び都市計画税を参加人に代つて負担し、支払つていること、<4>更に、被告は昭和四八年三月に有限会社石原町給油所を合併したが、その際参加人が被告の代理人として作成し東京地方裁判所に提出した認可申請書の添付書類である公認会計士加藤要範作成の「鑑定書」には、被告が参加人から本件土地を賃借している旨の記載があること、以上の点に鑑みると、右(一)で認定したとおり、被告は、(1)昭和三七年一二月ころに参加人から五三番七の土地の北側部分とそれに隣接する旧五三番五の土地とをガソリンスタンド経営の目的で賃借し、(2)昭和四二年一二月ころに、右賃貸借契約を一旦合意解除した上改めて参加人から五三番七の土地と五三番五の土地すなわち本件土地をガソリンスタンド経営の目的で賃借したものと認定するのが相当と思料される。被告が権利金を支払つていないことは参加人主張のとおりであるが、被告と参加人との関係を考えれば、なんら右認定の妨げとなるものではない。参加人の右主張は採用することができない。

3  賃貸借契約の目的について

次に、原告は、「仮に被告と参加人との間で本件土地につき賃貸借契約が成立していたとしても、右賃貸借契約はガソリンスタンドの経営を目的とするものであつてそれは建物の所有を目的とするものではない。」旨主張する。

しかし、<1>本件土地は被告が一括してガソリンスタンドを経営する目的で賃借したものであり、ガソリンスタンドの経営を目的として土地を賃借するということは、当然にそのために必要となる店舗や事務所等を建てることを意味するものであり、参加人も、被告がガソリンスタンド経営のために五三番七の土地上に堅固な建物である鉄筋コンクリート造の建物を建てることを了承していたものであること、<2>現在、五三番七の土地上には堅固な建物である本件建物が建てられており、被告はその一、二階部分を区分所有し、また、被告は、その後五三番五の土地上にポンプ室を建ててこれを所有使用していること、<3>本件建物の一階部分及び二階部分はそれぞれ店舗及び事務所として使用されており、右は被告のガソリンスタンドの経営上必要不可欠なものであつて、決して附属的なものとはいえないこと、<4>本件土地には地下貯蔵槽も設置されていること、以上の点を考慮すると、本件土地賃貸借契約の目的は建物保護に関する法律一条一項にいわゆる「建物ノ所有」(堅固建物の所有)であるといつて差支えなく、原告の右主張は採用することができないというべきである。

4  賃料について

前認定のとおり、被告は、昭和四二年一二月ころに、本件土地(五三番七の土地と五三番五の土地)を堅固建物所有の目的で参加人から賃借したものであり、その賃料は、前記15で認定のとおり、昭和四三年一月当時年額四八万円、その後増額されて、原告が本件土地を購入した昭和六一年五月当時年額二一六万円であつたと認められる。

5  賃借権の対抗力について

最後に、被告の本件土地賃借権の対抗力について検討する。

(一) 右のとおり、被告は昭和四二年一二月ころ以降本件土地(五三番七の土地と五三番五の土地)を参加人から賃借して使用していたが、五三番七の土地上には登記ある本件建物の一、二階部分を所有していたものの、原告の買受当時五三番五の土地上には登記ある建物を所有していなかつた(同地上には別紙第二物件目録(二)1記載の床面積四・九六平方メートルのポンプ室を所有していたが、登記を経由しておらず、原告の買受後に表示登記を経由した。)。

(二) 被告は、この点につき、前記のとおり、「被告が参加人から賃借したのは五三番七の土地と五三番五の土地であり、被告はこの一定範囲の土地を参加人から賃借してガソリンスタンド経営のために一体的に使用していたのである。そしてこの一定範囲の土地上には登記ある本件建物が存在しているのであるから、そうとすると、被告は、この一定範囲の土地の賃借権を新土地所有者である原告に対抗することができるというべきである。」旨主張する。

被告の右主張は、建物保護に関する法律一条一項にいう「其ノ土地」の意味を地番に関係なく賃借人が賃借した一定範囲の土地をいうものと解することを前提とするものであろう。傾聴に値する見解である。しかし、やはり、右の「其ノ土地」とは地番によつて特定される一定範囲の土地(筆)をいうものと解するのが相当であろう。

(三) そこで、以下、これを前提として検討する。

(1) まず、五三番七の土地については、被告は、原告が参加人から右五三番七の土地を買い受けた当時、同地上に登記ある本件建物の一、二階部分を区分所有していたのであるから、同土地の賃借権を原告に対抗することができることは明らかである。

(2) 問題は、五三番五の土地についての賃借権をも原告に対抗することができるかである。

たしかに、被告は原告の買受当時五三番五の土地上には登記ある建物を所有していなかつた。しかしながら、<1>被告は、右五三番五の土地と五三番七の土地とを一体的にガソリンスタンドの経営のために使用する目的で同一所有者である参加人から賃借したものであり、<2>現在五三番七の土地上には本件建物が建てられ、両土地は、東隣の自己所有地五三番四の土地とともに、一体的にガソリンスタンド経営のために使用されており(五三番五の土地は主として給油場所として、五三番七の土地は主として本件建物の敷地として、五三番四の土地は洗車機が設置された洗車場所として、本件建物の一、二階部分はそれぞれ店舗、事務所として使用されている。)、両土地は密接不可分の関係にあつて、五三番七の土地だけではガソリンスタンドの経営は不可能であること、<3>外観上も右三筆の土地は一個の土地のように見え、これを区分するものはないこと、<4>原告は、本件土地の買い受けに際し、被告が右三筆の土地を一体的に使用してガソリンスタンドを経営していること並びに本件土地上に本件建物及びポンプ室が存在することを知つていたが、弁護士である参加人から被告の使用権原は使用貸借である旨の説明を受けたため、これを信じ、被告にその旨を十分に確かめることもなく、また、他方、本件建物についてはその一、二階部分が被告名義に所有権保存登記されていることを確認したものの、更に進んで五三番五の土地上に存するポンプ室について登記がなされているかどうかを調べることもなく、本件土地を買い受けたものであること(結果的には、右ポンプ室の登記はなされていなかつた。)、以上の事情に加えて、今日においては建物自体の保護とともにそれを基盤とする賃借人の生活活動ないし企業活動も右建物と関係する相応の範囲内において保護されるべきものと考えられることを考慮すると、被告は、たとえ五三番五の土地上に登記ある建物を所有していなかつたとしても、五三番七の土地上に区分所有する登記ある本件建物の一、二階部分をもつて五三番五の土地の賃借権を新所有者である原告に対して対抗することができるものと解するのが相当である。そう解しても、なんら原告に不測の損害を与えるものではなく(原告としては、前示の状況のもとにおいては、被告がガソリンスタンドを経営している敷地について賃借権を有しそれを自己に対抗できるかもしれないことを当然に予測すべきであつた。)、また、他方、被告を不当に利するものでもない(被告が五三番五の土地上のポンプ室の登記を怠つていた事実は、たしかに無視することのできないものではあるが、しかし、だからといつて、そのような場合と五三番五の土地上に建物が全くなかつた場合とを別異に取り扱うべき理由はない。)。

(3) 結局、被告は五三番七の土地と五三番五の土地の両土地(本件土地)の賃借権を原告に対抗することができることに帰する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原田敏章 裁判官 姉川博之 裁判官 梶 智紀)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例